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なんくるない [書籍]

なんくるない

なんくるない

  • 作者: よしもと ばなな
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2004/11/25
  • メディア: 単行本


よしもとばななの短編集。

沖縄を舞台にした短編を4編収めた作品。観光客の視点から描いた、と作者が言及している通り、作者自身の目に映った沖縄を4つの視点から魅力的に描き出している。

この作家の定石どおり、人間関係の中にあるポジティブな視点と、そこから派生する活力をひたむきに享受することを中心に描き、主人公の精神的な高揚と回復が成される。その辺りは「ハゴロモ」と同じテーマだと言えるが、今回はその活力の元が沖縄という土地とそこに住む人々の持つ力という風に設定してあり、多少沖縄賛美の内容になっている。

その場合、沖縄についてある程度描けていないと説得力が無いが、土地の魅力はともかくうちなーんちゅのメンタリティと人物造形は的確で、かなりリアリティがあるものになっていた。特に会話の文章は上手くニュアンスをつかんでいると思う。あくまでうちなーんちゅの“他所行きの顔”の描写ということだが。

この作者は土地の魅力に依存した作品をいくつか書いているが、今回もこの作者の描く癒しの要素を、日常ではなく“観光地の沖縄”という非日常に依存したものに設定している。「ハゴロモ」にしても、別の土地へ移住して精神的に回復するというものだ。初期の作品にあった、なにげない日常に見出す暖かさや魅力では現在描きたい主人公の精神的なダメージはカバーしきれないということなのだろうか・・・。


空中ブランコ [書籍]

空中ブランコ

空中ブランコ

  • 作者: 奥田 英朗
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2004/04/24
  • メディア: 単行本


作家、奥田英朗が描いた連作短編。

各々の短編には主人公が居て、それぞれ様々な悩みを持ち現実に行き詰っている。彼らは軽い気持ちで病院へ足を運ぶが、待ち受けていたのは稚気溢れる神経科医・伊良部一郎だった。マイペースな彼に翻弄されていく主人公たちは、伊良部との絡みの中で解決への光明を見出すことになる。

まず、伊良部という神経科医の人物造形・・・でっぷりと太った体格、ぼさぼさの髪、中年の割りに子供っぽく自分の欲求に何処までも忠実な性格。親が日本医師会の大物ということで甘やかされて育てられてきたことをひしひしと感じさせる。父親が経営する総合病院の神経科に勤務するも、病院の地下に追いやられ、毎日暇をもてあましているという設定だ。どこを切ってもあまり魅力的とは言いがたい人物で、実際訪れる患者にも常識外れの言動や子供っぽい振る舞いの所為で呆れられることがほとんどだ。

この作品において伊良部は患者にほとんど何もしない。そのかわり自分の好き勝手に患者を振り回す。その振り回す部分がこの作品が「笑える」という評判の原因になっているわけだが、患者=主人公たちにとって伊良部の存在は治るためのきっかけに過ぎず、伊良部のそれとない示唆にも気づいたり気づかなかったりで、なにやらドタバタやっているうちに自ら病気を克服していく。

主人公たちは社会的な立場があり、自分の属する世界で精神的に煮詰まっている。そして伊良部と出会いガス抜きされることで自我の肥大と視野狭窄をまず克服し、視点をフラットな位置に戻し、本来の人間らしさを思い出すことになるのだ。

個人的にはハートウォーミングな面に目が行ったが、単にコメディとして読んでもそこそこ面白い。「義父のヅラ」という短編は爆笑モノ。


百器徒然袋 風 [書籍]

百器徒然袋 風

百器徒然袋 風

  • 作者: 京極 夏彦
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2004/07/06
  • メディア: 新書


妖怪作家、京極夏彦の短編集。

この作品は、本編である妖怪シリーズに出てくる榎木津というキャラクターを主人公に据えたサイドストーリーという位置づけになっている。とは言っても、本編に出てくる登場人物はほとんど登場するし、本編でちらと出た脇役たちも再登場するので、差別化が難しい。単なる枚数上の差で片付けることもできるが、それ以外にもいくつか相違点がある。

まず、妖怪シリーズでのストーリーテラーである小説家の関口はほとんど出てこない。この作品では代わりに本島という青年が語り部になる。小説家が語るのと一般人である彼が語る表現に大分差をつけてあるのは面白いところだ。電気会社の平社員である本島の語り口は極めて平易で出来事を主観で自分なりの見解を入れつつ語る。登場人物たちとも出会ってまもないので魅力や奇妙な振る舞いに素直に呆れたり驚いたりする。片や関口という小説家の語り口は、同じ主観で語りつつも他の登場人物とは古くからの友人であるという立場からのもので、多少突っ込んだ考察もあり、小説家という職業柄表現力が比較的高い。全く同じ位置に2人を置いて、その違いの妙を楽しませようとしているように見受けられる。そしてこの「百器徒然袋」シリーズは主人公たちの住む地域の周りで起こる事件を扱い、内容は比較的軽い。あくまで日常レベルを逸脱しない俗な事件を扱おうとしているように見える。

とは言っても、京極堂ももちろん重要な役どころで出てくるし、憑物落とし(=謎を解き明かし、解決へ導く)もきちんとする。含蓄のある雑学談義も健在だ。個人的には物足りないということは決してないし、こちらのほうがどちらかというと好きだ。勧善懲悪がはっきりしているし、登場人物の日常で見せる様々な表情も面白い。妖怪シリーズの場合、いやがおうにも非日常に放り込まれるので、こちらのほうが身近で感情移入しやすいと思う。まぁ、多少ふざけすぎと思うきらいもあるが。

今回は3編が収録されているが、最後で榎木津が取る行動は、このシリーズを時系列に読んできた方なら心打たれること間違いなし。かなり良いです 。


ラッシュライフ [書籍]

ラッシュライフ

ラッシュライフ

  • 作者: 伊坂 幸太郎
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2005/04
  • メディア: 文庫


家、伊坂幸太郎の長編。

伊坂幸太郎が現在のような注目を浴びる前に発表した作品。かといって作品の質が低かったりとっつきにくいということはなく、むしろ作品としてはこの時期のほうが完成されている感あり。若者を主役に据え独特の清涼感を出した近作より一般的といえる。

異なった5つの視点で進む物語。異なった場所で異なった登場人物たちによって進む各々の物語は、終盤になるにしたがって一つの“絵”として完成されていく。モチーフとして何度も匂わされる画家エッシャーの騙し絵のように。

独善的で金を振りかざす画商・戸田と画家の志奈子の小旅行、独自の哲学を持つ泥棒の黒澤の日常、新興宗教の幹部である塚本と入信者の河原崎が教祖を殺害し解体するエピソード、配偶者の交換殺人を目論む女医の京子とサッカー選手の青山の物語、リストラされ求職中の豊田と老犬のロードムービー(?)、この5つの物語が平行して進んでいく。黒澤と豊田のエピソードが中心となり、ペシミスティックで厭世観の漂う序盤からこの作家の持ち味であるオフビートなテンションで徐々にリアリティを度外視したポジティヴな結末へ向かうことになる。

それぞれの物語は相関関係がありながらも、登場人物達はニアミスするだけに終わっている。その為、各々のエピソードは色合いがくっきりと分かれている。一応ミステリではあるのだが、単純に殺人が起こりその犯人を捜すという話にはなっていない。むしろ、登場人物の心の機微を描くことが中心になっている。そして、そこで提示されるのはこの作家特有のポジティヴな寓話性であり、その価値観は暖かで、心地よいカタルシスを与えてくれる。最後に物語の全貌が見えたとき、普通のミステリとはまた違った多面的で独特の良さを感じることができるはず。


アヒルと鴨のコインロッカー [書籍]

アヒルと鴨のコインロッカー

アヒルと鴨のコインロッカー

  • 作者: 伊坂 幸太郎
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2003/11/20
  • メディア: 単行本


作家、伊坂幸太郎の長編。

この作品は、大まかに分けて2つの時間軸で物語が進む。語り部である主人公が居る「現在」と、事件の概要が語られる「2年前」だ。読み手は主人公に感情移入する事を強いられ、その結果2年前の生き生きとして魅力的な関係性が過ぎ去ったもので、自分は魅力的な物語を生きた登場人物と新たな物語を紡いでいくのかという期待を持たせられ、それは裏切られることになる。

徐々に示されていく2年前の物語は、ミステリでは割と定石の少々コミカルなもので、その部分に謎を置かずサスペンスタッチの青春群像劇に仕上げてあることで、その魅力ゆえに事件の痛ましさが増すという仕組みになっている。そして、謎は2年間の間に流れた月日の中において発生するものになっているのだ。過去に起こった事件から派生した事件に関わる主人公は、長い間溜め込まれた当事者たちの感情に落とし前をつけることになる。現在と2年前が交互に提示されることによって、事件の痛みを過去から現在まで引き摺っている当事者の感情がかなり正確に伝わってくるようになっている。この作家の特徴だが、事件へ登場人物が関わる際の“温度”が絶妙だ。

ミステリにおいて語り部は傍観者であり事件を解き明かす人物は別に居て、読者を代表する感情表現をする装置として機能することが多い。しかしこの作品では語り部が探偵となり謎を解いていく。そういった行動の理由を主人公の“好奇心”という感情だけで片付けているのは作者の力技だと思うが、結果として妙な説得力がある。ようするに、事件に関わった人たちの痛みを同じ目線で観ていることで、いわゆる“探偵”モノ特有の感情を無視した謎解きの違和感を感じずに済むのだ。


Sting -broken music- [書籍]

Broken Music: A Memoir

Broken Music: A Memoir

  • 作者: Sting
  • 出版社/メーカー: Delta
  • 発売日: 2005/01/25
  • メディア: ペーパーバック


ミュージシャン、スティングの自伝。
リンクは洋書だが、翻訳も出ています。

世界的成功を収めたバンド、ポリスから現在まで順調にキャリアを重ね50歳を迎えたロック・ミュージシャンのスティングが自らを振り返る本作品。このジャンルは、ミュージシャンが語りそれをライターが文字に起こしていくタイプの作品が非常に多いが、この作品はスティング自らが長い期間をかけて書き上げたらしい。実際読んでみると、ライターが介在した場合ありがちなバンドや作品の裏話や離婚にまつわる吐露などゴシップ的なものはきれいに選り分けられ、芸名であるスティングではなくゴードン・マシュー・サムナーという1人の人間の半生記になっている。

現在のスティングが妻と共にリオの教会を訪れ、そこで宗教的セレモニーの一環として幻覚作用をもたらす薬物を摂取するという出だしで始まるこの作品は、その薬物の幻覚作用によって幼少時代を思い出すという流れになり時系列に物語が進み、ポリスとして成功をつかむ部分をクライマックスに据え、エピローグとしてそこから現在までのプライベートの流れを軽く紹介して終わる。

スティングという人間が形成されるに当たって重要だったのは、人との出会い、音楽的な知識と技術の習得、がむしゃらに夢を追いかける努力という極めてまっとうな話になっている。語り口がインテリジェントで淡々としたもので、洒脱な表現が多用されているので、ロックスターのサクセスストーリーといった先入観を持って読むと肩透かしを食うかもしれない。実際、バンド期のことはほとんど割愛され、ソロ期は全く触れられていない。楽曲について言及したのはポリス時代の「ロクサーヌ」1曲のみだ。

ジェリーというジャズ・ミュージシャンについてかなり多くの文章が割かれている。彼はスティングと下積み時代を共にし、スティングの音楽的技術を向上させることに貢献し、公私にわたって長い間(現在まで)様々な形で関わった。(因みに彼はソロの「マーキュリー・フォーリング」に参加している)そういった、キャリアにおいて欠かすことの出来ない(大勢の)人物をそれぞれまとまった量描いていて、彼らの友情や愛情・信頼を追い風に1人の人間が社会的に事を成すという普遍的な物語になっている。


半島を出よ 下 [書籍]

半島を出よ (下)

半島を出よ (下)

  • 作者: 村上 龍
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2005/03/25
  • メディア: 単行本


作家、村上龍の長編。

上巻のレビューをまずは参照してください。

下巻では、上巻で登場した日本政府の官僚数名や新聞記者は背景をかなり掘り下げてキャラも上手く立たせてあった割りに全く登場しない。その代わりに医療施設で勤務する医師や占領軍と直接的に関わる仕事を請け負った市役所職員などを同じように掘り下げ描写する。キャラクターを立てそれに依存し話を転がすという手法はこの作品のテーマ上難しかったのかもしれない。結果的にはより多面的に“支配”の内実を知ることができるようになっている。それを少年たちの描写の合間に挟み終盤の直前まで語ることによって、福岡が占領されたことに人々が反発しあるいは受け入れつつも彼らが持つ今後への不安を生活レベルから浮き彫りにし、それゆえにクライマックスのカタルシスが増すという効果を生んでいる。

この作品は主に上巻で軽く描いた社会不適応者の少年たちを中心に描かれる。彼らが北朝鮮の占領軍を“敵”と認識し、自らの破戒衝動をぶつける相手として選び実際に行動を起こしていく様を、北朝鮮側や福岡市民の視点を挟みつつ断続的に描く。そこには福岡を救うというようなヒロイックな感情は微塵も無く、仲間たちで一つのイベントを成就させるというような興奮とカタルシスを求めるが故の行動というわけでもない。感情が未発達でコミュニケーション不全の少年たちが黙々とテロを行動に移していく様が何の理由付けも無く描かれるのみだ。その代わり、彼らが不幸な出自を持ち生き延びる為の攻撃性を身につけつつも社会から弾かれていたという部分は執拗にプッシュされる。その為、読み終えてみると「国家の危機を社会的弱者の若者が救う」という、若い読者にとっては溜飲が下がりっぱなしのフェアリーテイルになってしまっている。

物語はクライマックスの緊迫感を徐々に解きほぐす穏やかなエピローグをつけることでさわやかな読後感になっている。文章のリズムに慣れるのに時間がかかったが、読み応えのあるなかなか良い作品でした。


半島を出よ 上 [書籍]

半島を出よ (上)

半島を出よ (上)

  • 作者: 村上 龍
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2005/03/25
  • メディア: 単行本


作家、村上龍の長編。

村上龍の作品における一つの系譜である、現実を踏まえつつパラレルな日本を舞台にしたアクションやら政治ドラマやらを盛り込んだ大作。「愛と幻想のファシズム」や「五分後の世界」、「コインロッカーベイビーズ」のような、硬質でエネルギーの満ち溢れた作品になっている。

時は2011年、6年後の世界は情勢がかなり変質し、日本は経済的に崩壊しており、それに対して北朝鮮は中国とアメリカの援助によって現在とは違った世界的地位を得ている。北朝鮮で日本の福岡を占拠し一つの国として日本から独立させるという計画が立てられ実行に移されることになる。それが紆余曲折あり結果的に成就し、日本政府は福岡を含む九州を日本から切り捨ててしまう。

序盤は日本が現在からどういう風に変わったか、という部分を描写している。経済的な崩壊が個人レベルでの生活にどう影響したかだとか、異様に増えたホームレス達の生活を描く。そのホームレス達の中に居る少年はふとしたきっかけで福岡の施設へ行くことになり、社会不適合者の少年たちが集う施設の内実が描かれる。この少年にまつわる文章は章を割かれて描かれるので、後半へ繋がると思われる。また、日本政府の官僚や新聞記者など多角的な視点から福岡が制圧されていく様が語られて行き、中盤から終盤にかけては北朝鮮の兵士の視点で福岡の“支配”が描かれる。

この作者特有の精緻な描写は健在で、背景や舞台をかなりリサーチしたことをうかがわせる。登場人物の言動の細やかなニュアンスも描きクリアなビジョンを提示するので、読者が想像力を働かせたりミスリードする事を許さない。内容に見合った緊張感を保つ為の努力を様々な形でしているため、正直読んでいて疲れてしまう。

上巻では福岡を徐々に支配していく様が描かれる。北朝鮮の人物たちをストイックで素朴かつ民度の高い国民性に描いていることで、この作者お得意の、日本人の“のどかな”メンタリティに対する批判めいた意見をさりげなく訴えてくる。しかし北朝鮮の人物たちの国民性が日本に比べて経済的に貧困であることから来るという描き方もしており、この辺りは年配受けを狙った感がありあまり好きになれなかった。

基本的に、様々な登場人物の社会的立場や経歴やそこからくる独自の価値観を細かく描き出し、その対比によって日本の問題を有形無形に提示しつつ面白さを構成するという風に見える。起こった事件が拡げる社会的経済的波紋も描くが、それは枝葉のように思う。


グミ・チョコレート・パイン パイン編 [書籍]

グミ・チョコレート・パイン パイン編

グミ・チョコレート・パイン パイン編

  • 作者: 大槻 ケンヂ
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2003/11
  • メディア: 単行本


ミュージシャン、大槻ケンヂが描く青春群像劇の完結編。

バンドを結成したは良いものの居場所を見つけられず、ヒロインへの焦燥感と恋愛感情はすでに畏怖の感情にまで昇華されていた。必死に心の均衡を保つ主人公のもとにあるニュースが飛び込んでくる。女優であるヒロインが共演したアイドルとセックスしたというもので、ご丁寧に写真付きだった。そのインパクトに壊れてしまった主人公は鬱屈した日々を過ごし、死を身近に捉え始める。同時進行していた女優と高校生の2つの物語が徐々に絡み合い、主人公はヒロインに対峙する事を迫られるが・・・。

この作品は主人公である賢三が回復していく様を中心に描いている。そして、ヒロインの住む世界(=憧れている表現の世界)に触れることにより、妄想の末に肥大した憧れの世界と自分との位置と距離を現実的に把握し、再び表現のほうへ歩みだすという物語になっている。抱えた問題もしょうもなければ、解決方法もしょうもないが、男子高校生なんてそんなもんだろうし、それでいいと思わせるような展開で、最後はすがすがしく終わる。個人的には楽しく読めた。

この作品は完結編ということで、作者が前作「チョコ編」で公約した「登場人物を皆幸せにする」という部分においては申し分の無い出来になっている。ただ、この作品が始まってから11年の歳月が流れ完結したため、作者自身の自伝的な小説という意味合いは薄れ、完全なフィクションになっている。また、その間に作者の文章力も少々上がりそれなりに読めるものに仕上がっている。3部作の完結編としてはそれなりに納得のいく作品。ただ、自伝的意味合いを失ったことで単なる娯楽小説になった感はあるが・・・。


グミ・チョコレート・パイン チョコ編 [書籍]

グミ・チョコレート・パイン チョコ編

グミ・チョコレート・パイン チョコ編

  • 作者: 大槻 ケンヂ
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2000/09
  • メディア: 文庫


ミュージシャン、大槻ケンヂの長編3部作第二弾。

この作品ではバンド活動に向けて動き始めた主人公を含む4人の掛け合いの合間に女優としてキャリアを積み始めたヒロインの物語が挟まれるという体裁を取っている。女優になったことにより注目を集めアイドルと付き合うというようになったヒロインによって映画マニアの主人公は銀幕の向こう側へ行った同級生に対して今まで同じ学生生活をしていた人間という事での焼け付くような焦燥感と羨望、嫉妬が混ざり、恋愛感情もあるゆえにのた打ち回ることになる。その中でバンド活動に希望を見出すも貢献できる部分が無いという現実で、主人公は壊れていくことになる。

緊張感と密度の濃い世界でヒロインが女優として開花していく様を生き生きと描いた後に、その表現を受け取る側としていつもと変わらない生活している主人公たちを描くことで表題であるじゃんけんのゲーム「グミ・チョコレート・パイン」でヒロインが出している手は常に「チョコレート」であり、「グミ」という歩みの少ない手を出さざるを得なく、遠回りしながらも表現のほうへ歩を進める主人公たちが悲しくも滑稽でそれゆえに共感できる。

音楽関係のネタは今回もたくさん詰め込まれている。目標とするバンドのライヴを主人公たちが初体験するところなどはライヴを体験した際の興奮を上手く描き出しており、また受けるバンドと受けないバンドの違いについての描写などもあり、なかなか興味深かった。

ただ、終わり方があっけなく完結編を待て!というノリなのは少し引いた。あとがきを見る限り、意図的なものではあったようだが・・・。


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