告白 [書籍]
町田康の長編。
町田康が読売新聞に連載していた小説の書籍化。誌面ではいわゆる“打ち切り”のような形になり、結末を読みたければ本を買ってね!という商売のような体裁になってしまったようだ。因みに連載時は版画の押絵がありそれが相まって独特の世界観を構築していたようだが今回の書籍化にあたって押絵は省かれている。
史実でもあり俗謡にもなっている「河内十人斬り」という事件を、作者独自の文体で構築している。主人公の城戸熊太朗を幼少時代から没するまで丁寧に描き、しかも彼の主観的な視点をかなり導入することで作者の作風に引き寄せている。今作では主人公の魅力や人となりを描く延長線上に事件が位置するという風に描いてある。
主人公が幼少から違和感を感じつつ処世を行い、徐々にずれていき社会不適応者になり、排他的なムラ社会の人間関係の中で鬱屈した思いを抱き、最終的に犯行に至り、その後逃亡生活を送るまでを描いている。しかし作品の雰囲気は明るく、主人公の日々の生活のそれなりの楽しさもきっちり描いてあるのでさくさくと読める。むしろ、最後の犯行部分は蛇足と思えるほどだ。
作者は主人公の人物造形を非常に丁寧に行っており、彼が現実から落ちこぼれていく様を読者に納得できるように描いている。それも、社会的に抑圧されていたという画一的なものではなく、そこへ至るまでの心の機微に焦点をあて、落ちこぼれ世をすねた後の社会との適応まできちんと描いてあるため、この作者特有の主人公である弾かれ者という線も踏襲してあるのだ。
しかし史実ということもあり、主人公を描く際どこか距離を置き敬意を表している部分も散見される。弾かれ者の悲痛さの表現が幾分マイルドなのは、大正だか明治だかの共同体意識の強い時代設定も関係しているのかもしれない。
結局、この作品はアウトローの立場から観た社会と処世を中心に描いている。そこにはその立場なりの悲哀があるが、その立場の“メリット”もきちんと表現されている。
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