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意味がなければスイングはない [書籍]

意味がなければスイングはない

意味がなければスイングはない

  • 作者: 村上 春樹
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2005/11/25
  • メディア: 単行本


作家、村上春樹の音楽評論集。

作者が2003年~2005年まで、隔月刊の音楽専門誌に掲載した評論をまとめた作品。章ごとに取り上げるアーティスト(ミュージシャン)を決め、彼らについて主観を交えつつ語る、というような内容になっている。取り上げたアーティストは、シダー・ウォルトン、ブライアン・ウィルソン、シューベルト、スタン・ゲッツ、ブルース・スプリングスティーン、ゼルキン、ルービンシュタイン、ウィルトン・マルサリス、スガシカオ、フランシス・プーランク、ウディー・ガスリーという面子。ジャズ、クラシック、邦楽、フォーク、ロック、ポップスと幅広い分野から“主観的な好みで”選ばれている。

アーティストのキャリアについてまず語り、彼らが社会的に成し得た影響、音楽としての素晴らしさと(主観的な)欠点を述べるというような内容になっている。まぁ個人的なことかもしれないが、取り上げたアーティストがこの作者の手癖通り「名前は聞いたことがあるが実際耳にする機会がない」というような人たちばかりなので読み物としてはなかなか面白い。簡単にまとめてしまえば“自伝のダイジェストの集積”ということになるのだろうか。資料を基に書かれているので主観の入っていない部分を読んで作品に手を伸ばすのもよし、作者の思い入れと意見を読んで村上春樹のエッセイとして片付けるのもよし、という気楽な作品になっている。

この作品のタイトルについて作者はこう語っている。この作品のテーマのようなので、以下に抜粋。

「意味がなければスイングはない」というタイトルはもちろん、デューク・エリントンの名曲「スイングがなければ意味はない」(It Don't Mean a Thing, If It Ain't Got That Swing)のもじりである。しかしただの言葉遊びでこのタイトルをつけたわけではない。「スイングがなければ意味はない」というフレーズはジャズの神髄を現す名文句として巷間に流布しているわけだが、それとは逆の方向から、つまりいったいどうしてそこに「スイング」と言うものが生まれてくるのだろう、そこにはなんらかの成立事情なり成立条件なりがあるのだろうか、という観点から、僕はこれらの文章を書いてみようと試みた。この場合の「スイング」とは、どんな音楽にも通じるグルーヴ、あるいはうねりのようなものと考えていただいていい。それはクラシック音楽にもあるし、ジャズにもあるし、ロック音楽にもあるし、ブルーズにもある。優れた本物の音楽を、優れた本物の音楽として成り立たせているそのような「何か」=something elseのことである。僕としてはその「何か」を、僕なりの言葉を使って、能力の許す限り追い詰めてみたかったのだ。


ジャンルの違うアーティストを扱っていることで、各々切り口が異なっている。それは彼らの魅力をきちんと伝えようとするがゆえのアプローチだが、僕が最も興味を引いたのはスガシカオについて語った章だった。というのも・・・まぁご覧の通り僕は音楽レビューをするにあたり邦楽をメインにおいているわけで、それを敬愛する作家がやるとなればどうしても注目せざるを得ないわけでして。結果から言うと、「あぁ、僕は間違ってないな」と安心した。村上春樹が邦楽を語るにあたり重要視したのはやはり“歌詞”と“作り出された世界観”だったからだ。人間的な魅力(数奇な人生や社会的に成し得たことや音楽の革新性)という切り口からは攻められない以上そこしかない。様々なバックボーンとなる洋楽からの引用の集積を提示して現在の流行・・・というかメインストリームに対するアプローチの“角度”を賛美するというような器用な真似は出来ないのですよ。あくまで“主観”、1リスナーがCDを手に取りヘッドフォンで一通り耳にして感じた事を書き連ねているだけなのです。そしてそういった捉え方が間違ってはいないとこの作者はフォローしてくれてるような印象を受けるのだ。

取り上げられた各々のアーティストに対する興味がなく、僕のように「村上春樹の新作だから読むか」というスタンスで取り掛かってもある程度の面白さは保障している作品になっている。こういった形でまとめる事を前提にしているのなら取り上げるアーティスト自体の魅力を如何に伝えるかという力量を試される部分もあるが、そこを作者は既存のエッセイにおいての文体よりもかなり真面目に語りつつ個人の価値観も交えそれなりに読めるものに仕上げている。作者自身の魅力に寄りかかっていない部分は流石。


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miyuco

「アフターダーク」の「バクダンジュース」にはビックリでした。
それがこの本で種明かしされたような気がして
何だかスッキリしました。
スガシカオってそんなにみんなが知っているアーチストだったの?
という感じの村上春樹が愉快でしたね。
by miyuco (2006-01-08 21:39) 

マーキー

そうなんですよね。
「なんで村上春樹が邦楽?しかもスガシカオ!」
という驚きがありました。アフターダークには。
僕が思うに、現在邦楽全盛時代ってことになってるみたいですし、
日本で日本語を使い出版する事に対して作者自身こだわりがあるようですし
アフターダークは日本の“現在の”生活を取り入れるというような試みが
多少なりとも感じられるので、適度に風化しないような邦楽を調べた結果
スガシカオってことになったんじゃないでしょうかね。
あまり流行に乗りすぎると数年後に読んでダサくなってしまう場合もあるし。
風俗を取り入れつつ普遍性というものを大事にしている村上春樹らしい
選択ではないかと思いました。
by マーキー (2006-01-08 22:19) 

某ドカタ


Hしてお金もらえるって最高だな!!!!
ぶっちゃけテキトーにやっても月30万越えとか余裕だし(笑)

もう仕事辞めて、これ一本で食ってくわ!!!!(* ̄ー ̄)v
http://edenmkn.fukushima.coresy.net/edenmkn/
by 某ドカタ (2011-04-02 11:26) 

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