ラストイニング 9 [漫画]
漫画家、中原裕が描く高校野球漫画。
汗と涙ぁ…そんなモンいらねぇ! かつて名門、今は弱小の私立彩珠学院高校野球部にやってきた問題児監督・鳩ヶ谷圭輔が、硬直しきった高校球界の常識を変える!!
ラストイニング(最後の打席)と銘打ったこの作品。上司にはめられ職も金も女も失ったペテン師営業マンである元高校球児が古巣の野球部存続の危機で召集され監督に就任、次の職までの腰掛けと言いながらも、彼にとっての監督であった現・校長の期待通りに現役時代通りの理論的な戦術と、当時の清廉さと引き換えに得た今までの経験から来る策謀戦術で部員たちを甲子園へ導いていく。
この巻では春の大会の試合の模様が中心になっている。新設校でありながら、少年硬式野球全国大会ベスト4のチームをそのまま吸収した無名校・秩父優明館を相手に苦戦を強いられる。彩学の監督である主人公・鳩ヶ谷の「勝たなきゃ意味が無い」という信条と正反対の「負けて得たものが財産になる」という信条を掲げている優明館監督・玉川のユーモアを混じえながらも魅せる頭の切れと抜群の采配、前提条件が違う両監督の“頭脳戦”、この作品の魅力の質はまったく変わっていない。
抱えた選手たちの指導とスキルアップは打ち止め、この実力でどこまでいけるかという部分が鍵となる。しかし試合前に出会った玉川の「春の大会は夏のシード権さえ勝ち取れば敗退してもいい。下手に勝ち進んで手の内を見せることは無い(実力を露呈することは無い)」という言葉が鳩ヶ谷に響く。実力を見せれば注目されデータが残っている以上研究され攻略される可能性がある、その示唆、それに思い当たり鳩ヶ谷は戦略から選手個々の能力で打開する方向へシフトする。
少し間のある適度な緊迫感と情緒をはさまない演出で安定した品質を届けてくれる作品。前作“奈緒子”での牧歌的で純粋で叙情的なアプローチとはある意味真逆の面白さが。
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