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NARUTO [漫画]

NARUTO 巻ノ32 (32)

NARUTO 巻ノ32 (32)

  • 作者: 岸本 斉史
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2006/04/04
  • メディア: コミック


漫画家、岸本斉史が描く忍者漫画。

現在の掲載誌の看板漫画の一つ。丁寧な絵柄で描く成長記というか。途中までは追っていたが購読を止めたのでそこまでの話ということで一つ。

主人公・ナルトは木の葉隠れの里と呼ばれる国に属している学生。忍者学校では落ちこぼれであり、一人暮らしをしつつ国のトップである“火影(ほかげ)”という座を夢見ている。彼は古代にこの国を滅ぼそうとやってきた妖怪・九尾との戦争の際、術者たちが最終手段として人間の赤子の身体にその身を封じ込めたヨリシロ、いわゆるイケニエの成長した姿だった。それゆえに周囲から忌み嫌われ孤独に生きるも何故なのか理解できず一人で活発に生きることでアイデンティティを保ち、と。落ちこぼれの彼を地味にフォローし続ける担任である中忍のイルカ。この里における階級は上忍、中忍、下忍と分かれていて基本的に任務のランクによって仕事を振り分けられる基準となっているが、イルカはその職の中でいわゆる事務・・・昇格試験などの審査官や教師として学校で教鞭をとる、そういったことをしていて、ナルトにあれこれ世話を焼いてやると。そこで資格を取り卒業し晴れて下忍になったナルトは初めての職務で役割を決める試験を受ける。上忍と下忍のスリーマンセル(3人組)でチームを構成し任務に当たるというこの国の規約、そこで人のいい中忍のイルカから広く名の知られた上忍の“写輪眼”を持つカカシにナルトは託される。「イチャイチャパラダイス」というこの国のトップである伝説の“三忍”の一人が魂込めて書いているエロ小説を愛読書にしている感情の読めない切れ者、と。ちなみに“写輪眼”という特殊能力、戦った相手の術を見切り自分で使いこなせるようにするというものだが・・・・。そんな彼の指導の下任務をこなしていくが、組んだチームにサスケという実力者が。同系の血筋に伝わる特殊能力“写輪眼”を継承する家系だが兄が実力を求めるあまり少数精鋭の策謀組織に行きその試練として一族を皆殺しにする際サスケだけは情で生かしておいた。そういった哀しい評判で有名なレッテルを貼られているという出自ながら天才だと。ということは、その家系でない師のカカシが何故彼の家系でしか継承されない“写輪眼”を持っているか。その辺りはサイドストーリーが編まれているので割愛。序盤はそういった任務をこなしていく。忍者という仕事の厳しさと残酷さを知らしめるという意図があるような無いような。

中盤は中忍への昇格試験が主軸となる。3段階に分けられた試験、筆記、実技、面接・・・まぁ普通に社会を踏まえているが、2次試験のサバイバル・・・決められた時間内に目的地へ“3人”でたどりつく、その試験官であるポジノリながら実は暗黒テイストという上忍アンコ・・・この国を滅ぼそうとした元“三忍”の一人、大蛇丸の弟子でありながら母国へ戻り職務に就いている触れると痛いセクシー系姉ちゃんキャラの上忍、彼女の仕切りのもと他の十数組のチームと出し抜きあう試験が。その後は地道に性格付けをしてきた登場人物たちが一対一で戦うという“技術の競い合い”が行われる。忍術といえば初心者の術である“分身”の術しか使えないナルトが、多数の術を持ち、あるいは術そのものの強力さでアピールしている相手に工夫だけで勝って行くという。

展開はどんどんと個人レベルから国自体の存続レベルに挙げられていき。現在はどうなっているか知る由も無いが、コントロールできないものの妖怪の九尾を封じ込められたゆえに時折乗っ取られ実力以上の力を発揮するナルトは里から“危険”だと判断され、“三忍”の一人・・・小説「イチャイチャパラダイス」を書いた人だが・・・、自来也というフリーの忍者に託される。彼に師事し・・・まぁ要は個別指導ってことだが、共に旅に出て分不相応な“技”を一つ習得することと身体能力の標準化を課せられ。それと並行して・・・つまり主人公は“不在”、いままで人物造詣してきた登場人物の“群像劇”にシフトする。悲劇を象徴するサスケの物語が中心となり、彼が“三忍”の一人・・・あれです、ナルトの師とスリーマンセルを組んでいてアンコの師である大蛇丸、彼の陰謀に加担することを迫られる、と。

この辺りまでしか読んでいないが、兄への復讐のため自分の意思をまっとうしようとするサスケと情で動くナルトが対峙し、各々の得た実力で闘い。お互いの師である上忍・カカシが止めに入るも勝負はつき後の祭り、落ち着くところに落ち着いてしまっていたというか。掲載誌のほうでは確か名実共に中忍になったナルトが母国・木の葉隠れの里に帰り、また新たな展開があるようで。

この作品の魅力だが、人物造詣が非常に上手い。一個人の想像力を超えているというか。カブりがちなキャラクターでもきちんと差異を持たせている。それも画力に依存したものではなく“性格”で表現してあるというか。そしてその性格が彼らの技術に直結していて・・・まぁようするに“忍者というのはメタファー(比喩)だよ、社会の空気をつかんで提示しているだけ”と・・・まぁ常識というか漫画を読む目的をまっとうしただけなのかもしれないが、この作品はそれを非常に丁寧に分かりやすく諭してくれるというか。結局作者の人柄・・・“優しさ”で現実を見る角度を少し修正してくれる。その“バランス”が本質、と。画力は漫画というカテゴリで追求できる暖かさやディフォルメやらで“娯楽”を追求し、広範な意味での物語に“リアリティ”を持たせてある、それが。どちらも“肯定性”と“安心感”と“哀しみ”、そういう意味合いでかなり高品質な作品だと思います。個としての輪郭をどれだけはっきりさせるかが表現者としての成長、それがテーマかと。機会があれば再読してみようかと。

えーと、画像はナルトを適当に相手している肯定派のスリーマンセルです。


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Happy! [漫画]

Happy!―完全版 (Volume13)

Happy!―完全版 (Volume13)

  • 作者: 浦沢 直樹
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2004/06/30
  • メディア: コミック


漫画家、浦沢直樹が描く“YAWARA!”

主な登場人物/海野幸(両親に先立たれ、3人の弟妹を育てる健気な娘。2億5千万円の借金を返すためプロテニス選手の道へ)、竜ヶ崎蝶子(竜ヶ崎財閥の令嬢。実力も兼ね備えたテニス界のアイドル。だが、その本性は…)、鳳圭一郎(鳳財閥の跡取り息子。幸の初恋の相手)、桜田純二(「ビッグバンファイナンス」営業主任。幸の借金取り立て担当)●あらすじ/全仏オープン2回戦。蝶子は無敵の女王・ニコリッチから第1セットを先取し、次のセットも3-0と優勢に試合を進めていた。奇跡を予感して、興奮に包まれるマスコミや観衆たち。だが、幸のバックにいる鳳唄子やサンダーは、女王のプレーを狂わせた本当の理由を悟って…(第203~4話)。●その他の登場人物/サブリナ・ニコリッチ(女子テニス界に君臨する女王。今回のウィンブルドンを最後に引退を表明)、サンダー牛山(幸のコーチ。飲んだくれで手クセも悪い)、鳳唄子(圭一郎の母。鳳テニスクラブの総帥)、賀来菊子(蝶子と並ぶ女子テニス界の新星だったが、暴力事件を起こしてプロ資格を失う。幸の理解者)、鰐淵京平(桜田の親会社の社長。欲しい物はすべて金で手に入れる主義)、弁天橋雛(圭一郎の結婚相手に選ばれた女性。胸が大きい)、海野家康(幸の兄。海野家の莫大な借金を作った張本人)、舵樹・沙代里・三悟(幸の弟妹)


当時並行して連載されていた「MONSTER」と対を成す作品。あちらは医師が、彼のアイデンティティである「偽善性」から本当の意味合いでの「善意」へシフトするさまを魅せる、そういう作品ですが、この作品とテーマは同じ。「不遇の人物へのエール」です。

ぼろアパートで細々と暮らしている3人兄弟。父親、つまり“自分のせいではない”借金のために借金取りにひたすら追い込みをかけられ続けている。そして主人公の高校生・海野幸はテニスプレイヤーとしての才能がありながらも生活に追われていると。裕福な先輩のまったくしがらみと世間を知らない配慮に戸惑い、借金取りとして派遣されたお人よしのやくざ、この2人が彼にとっての物語上の恋愛という軸の一つでの3角関係を“演ずる”ことになる、と。主人公は古典的な耐える女性を演じ、ひたすら“借金を返すために”奔走すると。まぁありたいていに言うと“債務者”と“債権者”という世知辛い環境におけるなんだかわけの分からない関係性、長いこと関わっているうちに“金を返してもらうため”という題目から情が移り“恋愛”という・・・まぁいわゆる仕事からプライベートってことですか、そういう風になっていくと。裕福な家庭に生まれながら上昇志向の強い女性の嫉妬と策謀で何度も窮地に立たされ・・・そんな事情なんて何も知らず主人公は“プレイヤー”として才能を発揮するだけだと。

この作品の面白いところは、主人公自身は完全に“蚊帳の外”ということで。周りの人間たちだけが相手の事情を知り・・・それが彼女にとってメンタル的にまずい、スポーツ選手のモチベーションを下げることになる、それは借金を返すことの妨げになり、営業妨害であり・・・、正直聞いてられないほど残酷な話だと。あれこれ建前つけているが彼女のテニス選手としての1ファンであり、それゆえに彼女の才能を潰したくない、それで彼女の生活という枠組み・・・上の思惑や個人の思惑や周囲の“彼女が好意的な人物”・・・つまり、彼女の価値観を絶対に崩さないように画策する。単に借金苦の女性である、そう思わせることがある意味“幸せ”だと。裏を見せたくないというある種の“善意”なわけでして。

その甲斐あって彼女は与えられたチャンスにひたすら挑戦し勝ち残っていき・・・結局“しがらみ”をすべて“実力”で跳ね除ける、そういうサクセスストーリーを描き出したと。そして恋愛というサイドストーリーでは・・・男性陣が彼女の“世界観”を守るために情報を意識的にシャットアウトし、“日常に根ざした回復可能な夢”を見せてあげると。

そして、結末は“恋愛”という物語は壊れ、“人生”という点では軌道回復し。こうやって書いてみるとハートウォーミングストーリーと思えるが、この作者の手癖として“哀しい諦観を混じえたシビアな現実の提示”というものがあって。つまり、ある人物が成功するまでに払った“犠牲”、それを描き出している、と。

あの当時の風潮とはいえちょっと厳しいです。面白さは保証つきですけど。ちなみに画像のキャラクターはお坊ちゃんで主人公の夢を応援していたアマチュアテニスプレイヤーですが陰謀によって手首の腱を断裂、再起不能と診断され、最後に彼女が世界のトップに上り詰めたのを観て・・・その“努力”を観まもっているうちに“再起”を考え行動に起こす、と。新世紀の“YAWARA!”です。お試しあれ。


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SLAMDUNK [漫画]

スラムダンク (31)

スラムダンク (31)

  • 作者: 井上 雄彦
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 1996/10
  • メディア: コミック


漫画家、井上雄彦が描いたバスケットボールを題材にした作品。

続編が熱望される認知度の高い作品。一時流行った完全版という体裁のカラー原稿を復刻した豪華本が出版、売り上げも掲載誌で“現在も”上位という。人気連載を2本抱えているので静観するしかないと。まぁ定説として現在不定期連載中の「リアル」という作品がこの作品の続編ということで一つ、桜木花道は病気療養中、流川は世界に出て・・・と。ナガノミツルという両作品に登場している人物でそれを宣言し。虚飾をそぎ落とし手触りの現実感を感じられる作風へシフトしなければ現在は伝わりにくいんではないかという配慮なんですかね。「リアル」は不定期連載であるがゆえに“本音”の意味合いが強く、だからこそダイレクトに響くわけなんですが、“肯定性”という点では同じかと。

中学時代地元の不良どもに名を馳せていたチンピラの主人公・桜木花道は紆余曲折ありバスケ部に入部。そのバスケ部は強面の主将と人の良い副将のみで持っている弱小のチームだった。ど素人の彼を地味に育て続けるが彼は身体能力の“使い道”を知らず、単純な暴力で事が済んだ世界に生きていたため“技術”という概念を知らない。まぁようするにフィールドが違えばスキルも単なる勘違いで終わってしまう、それだけの話でもあるんですが。それぞれのポジションを担う登場人物が現れ、チームが完成し。一人集うごとに試合の色が変わり・・・ようするに選手が与えた影響力が確実に見て取れるってことだが、基本は主人公であり発展途上の桜木とある種完成し知名度と評価と努力の両立した同じチームのライバル・流川の交流か。流川はひたすら個人のスキルを上げチームとしてではなく自分自身の価値を高めることに精進しているため意思の疎通という点が唯一のウィークポイント、片や桜木花道は人柄を愛され雇われてる的な。彼がスポーツの選手になるということの本質的な意味合いを知る、一言で言うとそれだけというか。モチベーションを他に求めていても関わる事柄、それを掘り下げていけば周囲によって作り上げられた“役割”の本来の意味と意図とそれに対する理解を得ると。序盤は主人公をかませ犬という位置だと知らしめるために配置された役柄だったが、彼自身の物語も掘り下げていく。集っていくチームメイトたちは登場の際自己紹介代わりのエピソードをかましてあるが、もともといたセンターフォワードのキャプテン赤木、スモールフォワードのメガネ君こと小暮、そして点取り屋としてのパワーフォワードの流川、彼らのサイドストーリーを語る。その共通点は“継続”することの難しさ、と。

印象に残ったのはやはり最後の試合。名実共に伝統のある“常勝”を掲げる高校バスケの名門・山王工業。全国大会に出て地道に実力をみせ評判を獲得していた流川は、相手側のパワーフォワード、同じポジションであり山王始まって以来の“天才”と呼ばれる選手・沢北と対峙する。スキルの方向の類似性、そしてそのすべてで完全に上を行かれている彼になすすべもなく手玉に取られていく流川。主人公・桜木が惚れているヒロインで流川のファンである春子のモノローグ、積み上げてきたもの(技術も自信も名声もプライドも)がすべて壊れていってしまいそうだ、それが。個として生きることを選んだ彼のよりどころ、それがすべて失われると。ご丁寧に沢北の過去まで描写し、彼が性格まで似ていたことをに匂わせる。つまり、彼は個人主義の流川の到達点、“大人”として配置されているわけで。

地味に観察しつつ絶対に認めなかった主人公・桜木花道の成長を最後の最後で流川が認めるところで物語は終わる、と。当時のハッピーエンドとバッドエンドの極端さの中で“現実”を踏まえたエンディングにしたことで・・・って当たり前の話か。すみません。個人的に好きなキャラクターはオールマイティープレイヤーで中学時代MVPをとり鳴り物入りしたものの怪我に泣き普通にグレつつなり切れずどこか間抜けな不良に成り下がり、取り巻きの暖かい善意と敵側の気の利いた配慮でバスケ部に戻りつつ、ブランクに負い目を感じ“先輩”としての視点で後輩をコントロールする役割を自ら請負い・・・。ようするに、自分の才能の枯渇、それを自覚して立場をシフトした彼がチームメイトとプレイすることで意識はそのままに成長している、と。監督の安西先生の言葉がそれを肯定し。

先日企画で“最終回直後”を作者自身が描き、時間軸を2005年に設定しなおしてあるので、もしかしたらもしかするかもと期待を。


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さよなら絶望先生 3 [漫画]

さよなら絶望先生 3 (3)

さよなら絶望先生 3 (3)

  • 作者: 久米田 康治
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2006/03/17
  • メディア: コミック


漫画家、久米田康治が描く風刺漫画。

絶望の中に極上の笑いあり!言いたいことは全て言う、糸色望の絶望授業は今日も変わらず絶好調!!絶望先生こと糸色望率いる2のへ組の2学期が始まった! 校内、校外問わずますます磨きがかかる先生のネガティブ授業。でもなぜか納得しちゃうから不思議です。大人が言わないホントの事を、あえて言っちゃう自爆コミック、いよいよ第3集が登場!


この作者の代表作ともいえる前作「かってに改蔵」で作り上げたスタンスを踏襲した作品。風刺のきつさ・・・というかもはや普通に悪口なんだが、それが魅力のメインになり物語はあくまで枝葉という。

わかりやすく昭和の文学に感化された教師・糸色望は、まぁいわゆる“滅びの美学”だとか“ステレオタイプな作家像”に心酔していて・・・とはいっても特定の作家が一瞬で想起されるんだが・・・、その美学で美しき師弟愛やらの自分の価値観を社会に向けて提示している、と。ところが正直今は平成で多種多様な生徒がいて彼のヒロイックでナルシストなキャラはまったく通らず、事態を収拾するために必死で弁明する際の“素”の意見、相手に向けて説得しているがはたから聞いていたら失礼極まりない風刺を例えに出している、しかもそこまでするほどお人よし、と3種の笑いを1コマに、という。また、生徒と接するときには画像通り着物を着て自己表現をしているが地元に帰れば普通にファッション誌を参考にした格好をして街をうろつきそれを生徒に見つかるという。生徒も生徒で普段はまったくその部分には触れていない=意図的にスルーしているのにここぞとばかりに「先生を信じていたのに!」と心にも無い熱演を。

風刺のネタが旬のものばかりなので鮮度を多少考慮しないといけない部分もあるが、その辺りは主人公が生徒に影響されて微妙にキャラが変わっていっている部分で補完、というか。絶望からさよなら、と。なるほど。


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わたるがぴゅん! [漫画]

わたるがぴゅん! (19)

わたるがぴゅん! (19)

  • 作者: なかいま 強
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 1990/09
  • メディア: 新書


漫画家、なかいま強が描く野球漫画。

沖縄出身の漫画家・なかいま強が月刊ジャンプで連載している長寿漫画。19巻までは追っていたが、なんと今は57巻。ほとんど野球の試合ばかりという印象があるが・・・。

気弱なキャプテンが率いる東京の弱小野球部に転校してきた主人公。彼がピッチャーとなることでチームは変わっていく。“うーまくー”(やんちゃ)で“ちぶらー”(ずるがしこい)な彼は騙してからかってなだめすかしてと“駆け引き”のみで仲間も試合もコントロールしていく。理論的な戦術ではなくあくまで化かし合い、相手の性格を見抜き本質を突いていくことでどんな人間でも無理矢理コメディに持っていく、と。つまり、彼によって虚飾をそぎ落とされ本来の人間臭さが露呈されてしまうわけで。

エロも恋愛も萌えも試合展開における興奮も無いが、得点などの目に見える部分でない精神的な部分での勝負、そこを描いているような。沖縄方言が飛び交うことを抜きにすれば完全なコメディだが、試合終了後に既存の野球漫画に無い独特のカタルシスがある。例えばわたるが沖縄に居た頃に彼女をとられ復讐するために追いかけてきた“がっぱい”の強打力に目をつけたわたるは彼を野球部に引き入れ理屈の通じない彼を笑ってしまうほど手玉に取りホームランを打たせる、と。仲間だろうがなんだろうがスタンスは一緒という。主人公一人の魅力に依存した・・・ある意味オーソドックスな少年漫画というか。設定に対するリアリティなんて度外視、人間同士のやり取りでそれを描き出す、と。

しかしここまでの長寿連載になっているとは。


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Dr.コトー診療所 [漫画]

Dr.コトー診療所 19 (19)

Dr.コトー診療所 19 (19)

  • 作者: 山田 貴敏
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2006/05/02
  • メディア: コミック


漫画家、山田貴敏が描く医療ドラマ。

満足に医療設備も揃わぬ絶海の孤島に、一人の若き天才外科医が舞い下りた時、奇跡のドラマの幕が上がる!! 感動必至の離島医療物語。


近年ドラマ化された離島を舞台にした医療モノ。実在の人物をモチーフに、数話完結の“医療”という表現手段を用いてヒューマニズムを描き出す。近々単発でSPドラマとして放送されるという噂も。

人口の少ない離島に東京の病院から赴任してきた医師・五島健介。牧歌的に医者としての職務を全うしようとするも、突きつけられた現実は。ろくな医師が派遣されてこなかったため島民の医師への信頼は無く、診療所に詰める看護婦・彩佳ですら「治療は6時間かけて本島まで船で行く。ここでは診断するだけでいい」と述べる。田舎特有の余所者への冷たい視線を受け、彼はまず信頼関係を築くことから始めていく。

序盤からのそういった物語が一段落すると、彼の医師としての技術と生命に対する姿勢を描き、そこから数話完結でブラック・ジャック的アプローチを魅せ、離島で暮らす人々との交流がメインになっていく。ドラマのほうはその中の人間関係に焦点を当て描いていたが、この作品ではもう少し描写に現実味を持たせ掘り下げ、なおかつ牧歌的に仕上げてある。離島医療の現実よりも離島そのものの実情と暮らしと良さを描いてあるような。

描写や展開が巻を追うごとに厳しくなっていくのは気のせいだろうか。サザエさん的“物語内では時間が止まっている”アプローチではなく、登場人物は年を取り島の事情は流動的で子供たちは成長していく。それゆえのことかもしれないが、なんだかケレン味が過ぎるんじゃないかと思う。画風の中和が追いつかなくなっているような。この漫画家の本来の作風、柔らかな絵柄で厳しい現実を切り取ることで訴えかける力を増すというものだが、実在の人物をリサーチした上で描き出した中盤までと、そこから今までの展開に乖離が見られるような。ここからはいわゆる“自分の作品”として作り上げる、そういうつもりならば見守るしかないところ。


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陽気なギャングが地球を回す [書籍]

陽気なギャングが地球を回す

陽気なギャングが地球を回す

  • 作者: 伊坂 幸太郎
  • 出版社/メーカー: 祥伝社
  • 発売日: 2006/02
  • メディア: 文庫


作家、伊坂幸太郎が描くサスペンス。

嘘を見抜く名人、天才スリ、演説の達人、精確な体内時計を持つ女。この四人の天才たちは百発百中の銀行強盗だった……はずが、思わぬ誤算が。せっかくの「売上」を、逃走中に、あろうことか同じく逃走中の現金輸送車襲撃犯に横取りされたのだ! 奪還に動くや、仲間の息子に不穏な影が迫り、そして死体も出現。映画化で話題のハイテンポな都会派サスペンス!


この作品は最初に起こった出来事・・・いわゆるプロとしての失敗の汚名を晴らし名誉挽回するというような物語になっている。ただ、犯罪者同士のネットワーク内での汚名というような俗な話ではない。彼らの人物造詣はユーモアを持ちそれなりの職業倫理を持ち美学を持っているというもので、「金が惜しいのならまた銀行を襲えばいい、俺らはプロなんだから」というリーダーの意見を尊重し、まぁあちらも同業者だしななどとシンパシーすら見せる始末。そんな風にあっさりと片付け日常に戻ったはずが・・・。

一読して思ったが、とにもかくにもミスリードが上手い。いくつかの主軸となるエピソードを散らし、割と細かく分けられた章ごとにランダムに描いていく。それが終盤になっていくにつれ・・・という展開で。物語のテンポがよくスイスイ読めるので登場人物の魅力を描いているだけかと軽く流した部分に伏線が張られていたりと。結果的に犯罪者=ギャングたちの日常と彼らの人間的魅力を描いたという印象が強いんだが、キャラクターの魅力に依存している作品ではないというか。物語としてもきちんとした品質を保っている。

二転三転する展開の妙を魅せるのが趣旨なので、筋に沿った感想を述べると読んだ楽しみが薄れるかと。ただまぁ、登場人物たちの生活感の無さと妙に上品な立ち居振る舞い、そしてリアリティの欠如という点は相変わらず。物語の構成と散りばめられた伏線の収集具合の技術を楽しんだほうがいいかと。後は雰囲気を許容できれば。まぁあれこれケチをつけながらも読後感の良さもいつも通りなので。


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ラストイニング 9 [漫画]

ラストイニング 9 (9)

ラストイニング 9 (9)

  • 作者: 神尾 龍
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2006/03/30
  • メディア: コミック


漫画家、中原裕が描く高校野球漫画。

汗と涙ぁ…そんなモンいらねぇ! かつて名門、今は弱小の私立彩珠学院高校野球部にやってきた問題児監督・鳩ヶ谷圭輔が、硬直しきった高校球界の常識を変える!!


ラストイニング(最後の打席)と銘打ったこの作品。上司にはめられ職も金も女も失ったペテン師営業マンである元高校球児が古巣の野球部存続の危機で召集され監督に就任、次の職までの腰掛けと言いながらも、彼にとっての監督であった現・校長の期待通りに現役時代通りの理論的な戦術と、当時の清廉さと引き換えに得た今までの経験から来る策謀戦術で部員たちを甲子園へ導いていく。

この巻では春の大会の試合の模様が中心になっている。新設校でありながら、少年硬式野球全国大会ベスト4のチームをそのまま吸収した無名校・秩父優明館を相手に苦戦を強いられる。彩学の監督である主人公・鳩ヶ谷の「勝たなきゃ意味が無い」という信条と正反対の「負けて得たものが財産になる」という信条を掲げている優明館監督・玉川のユーモアを混じえながらも魅せる頭の切れと抜群の采配、前提条件が違う両監督の“頭脳戦”、この作品の魅力の質はまったく変わっていない。

抱えた選手たちの指導とスキルアップは打ち止め、この実力でどこまでいけるかという部分が鍵となる。しかし試合前に出会った玉川の「春の大会は夏のシード権さえ勝ち取れば敗退してもいい。下手に勝ち進んで手の内を見せることは無い(実力を露呈することは無い)」という言葉が鳩ヶ谷に響く。実力を見せれば注目されデータが残っている以上研究され攻略される可能性がある、その示唆、それに思い当たり鳩ヶ谷は戦略から選手個々の能力で打開する方向へシフトする。

少し間のある適度な緊迫感と情緒をはさまない演出で安定した品質を届けてくれる作品。前作“奈緒子”での牧歌的で純粋で叙情的なアプローチとはある意味真逆の面白さが。


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MONSTER [漫画]

Monster (1)

Monster (1)

  • 作者: 浦沢 直樹
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 1995/06
  • メディア: コミック


漫画家、浦沢直樹が描くサスペンス。

浦沢直樹が世紀末に発表したドイツを舞台にした作品。当時“Happy!”というテニスを題材にした作品と並行して連載されていたが、テーマはほぼ同じ、“不遇の人物へのエール”で。

日本から来た医者Drテンマは大病院に勤めながらも派閥や処世にやりきれなさを感じていた。医者という職業にステレオタイプな理想像を描き出しその理想に少しでも近づけるよう患者と接する卓越した技術を持つ若手。しかし、人情を打ち出すことで結果的に患者やスタッフからの評判が上がり、そこに技術=実力が伴うことで院長に目をつけられ、彼の持ち駒になるようにあれこれ画策され・・・彼の娘との婚約による地位の保証やら彼名義で論文を書かされたりと自分の理想とは違った処世に違和感を感じる。そんなある日、頭に銃弾を打ち込まれた少年が急患で担ぎこまれオペで彼を救う。その直後院長は何者かに毒殺され、結果的にテンマは出世、彼の理想と現実は一致する。そして数年後、ふとしたきっかけで成長した少年・ヨハンと再会し、「僕の命を助けてくれたのであなたの人生の邪魔になっていた彼を殺してあげた。恩返しとして」と告白し彼は消える。

ヨハンが時折現れ目の前で起こす惨劇、それを食い止めるため・・・、まぁようするに自分の美意識とモラルと生き様を肯定するためってことだが、紆余曲折あり警察に疑われ追われる事になったテンマは自分が手術で救った子供が連続殺人犯となり手足を使いさまざまな犯罪を犯している事実、そしてその“責任を取るために”、つまりヨハンを殺すために“逃亡者”として姿を消す、と。

物語は数話完結のエピソードの集積で構成されていて、世界の断片を切り取りパズルのようにピースをはめていくことで徐々に全体像が見えていくという形をとっている。エピソードごとに登場する人々の人物像をくっきりと描き出しつつも、物語の底に流れる“悪意”によって彼らは病みあるいは闇に向かっていく。強靭な意志を持ち、職を辞してまでテンマを追う元刑事・ルンゲと、ヨハンの双子の妹ニナをキーマンに物語は二転三転していく。

昼の世界で生きる人々の描写で感じる精神的な闇の部分は、逃亡者としてテンマが出会うアンダーグラウンドの人々と対峙したときにのみ“当然のもの”として描かれる。牧歌的でステレオタイプな倫理観とポリシーをひたすら削り取られていくテンマに残された価値観は結局のところ“ヒューマニズム”だけだと。

当時の風潮的にバッドエンドでもおかしくない展開だったが、最終的には相手を理解し受け入れるという。そこに一縷の希望というか願望を見出していた姿勢を感じました。その結果は現在の作者が描いているので明言は避けます。


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クロスゲーム 3 [漫画]

クロスゲーム (3)

クロスゲーム (3)

  • 作者: あだち 充
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2006/03/17
  • メディア: コミック


漫画家、あだち充が描く野球漫画。

幼なじみは四姉妹!? スポーツ用品店の息子・樹多村光と、バッティングセンター&喫茶店「クローバー」の娘たちが繰り広げる、爽やかで少しせつない青春野球ストーリー!!


“野球を題材にした青春群像劇”(作者談)を代表作にするベテラン作家の新作。インタビューを拝読したところ、前作が諸事情で不本意な形で終わったため間をおかず新連載を開始、その際選んだ題材はパブリックイメージを代表する“高校野球”だった、ということらしい。

主人公の樹多村光は幼い頃幼馴染の女性を亡くし、彼女が語った彼への期待を忘れられず投手として地味にトレーニングを重ねていた。周りは彼女の死を契機に野球から遠ざかっていると思っていたが、ふとしたきっかけで積み上げた実力が露呈、紆余曲折あり高校の野球部へ入部。ところが1軍と“プレハブ組”と呼ばれるいわゆるファームに二分されあからさまな待遇の違いのある野球部、監督すらも違う環境で彼らは一軍昇格試験である練習試合を待つ。

この巻では野球部を取り巻く状況を割りとこまかく描いている。新たな登場人物も多数登場、顔見世は終わらず。技術と実力のみで形成された一軍は感情を排した練習方法で、妹の意思を主人公と同じように継いで女性ながらに投手として訓練してきたヒロイン・青葉の自信を根こそぎ奪い去る。そういった布石が敷かれ、次巻の練習試合へ、と。

今作は野球漫画としては前作となる“H2”とかなり読後感が違う。簡単に言えば、いつものとぼけた味わいを抑えてまでケレン味というか・・・“情感”を打ち出してくる。前作にあった透明感のある成功譚的趣ではなく、長い年月をかけて形成された思い出からくる主役周りの登場人物たちの中で共有する想い、それが下地になっているがゆえの物語におけるタメ、それがかなり色を変えているというか。逆にこの作者でなければ・・・透明感で中和しなければ現在では成り立たないのではないかと思うほど。これはもしかして技術や理論やカタルシスに偏った現行の野球漫画へのカウンターなんだろうか。


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